――今はスーツも靴もオーダーしか身に着けないそうですね。やはり自分らしさへのこだわりでしょうか。

ファッションで大事なのは、自分が自分をどう見せたいかだと考えています。周りからどう見られるかばかりにとらわれるのは不自然です。私は自分をカッコよく見せたいし、センスのあるところも発信したい。要はファッションを自分が楽しむのが大切です。そうするとオーダーで自分の好きな素材を使ったり、カッコいいと思う形に仕上げたりすることがファッションの楽しみにつながります。

――会社のビジネスファッション自体はずいぶんとカジュアル化していると聞きました。有本社長の普段の格好はいかがですか。

確かに以前と比べるとスーツ姿は減ったかもしれません。社内ではスーツではなくてジャケットを着ることも多くなりました。しかし上場してから講演する機会が増えましたし、上場企業の経営者が集う会合にもたびたび顔を出すようになり、そういう場ではやはりスーツの出番となります。決算説明会も、きょう着ているようなスーツで臨みます。

愛用品の時計とボールペン。自分らしさと、ふさわしさの両方を満たす

――前編の記事では、上場を機に上質なものを選ぶことに気を使うようになったとお話しされました。どんな靴を履いているか、どんな時計を身に着けているかも見られるとか。

そうですね。経営者や企業の幹部が集まるような会合では、あの社長、いい靴を履いているねといった話が交わされるものです。私自身は別に物欲が強いわけではありませんが(笑)、それ相応のものを持つことは上場企業の経営者の仲間入りをするために必要条件かもしれません。時計もパテック フィリップを一つ持っていなければいけないなと思い、よいのを探していてシンガポールで買い求めることができました。いつもはケースの中に入れていて、ここぞというときにはめる時計です。

――まさに勝負時計ですね。ボールペンもよいものをお持ちです。

モンブランです。これは知人から誕生日のプレゼントにといただいたものです。上場に至る途上で、いくつもの書類にサインをするときに使ってきました。モノのよさもさることながら、縁起がいいのでいつもスーツの内ポケットに挿しています。

――結構、験を担ぐほうですか。

MS‐Japanを創業する前に勤めていた会社で営業をしていたときは、勝負ネクタイ、勝負ペン、勝負パンツまでありました(笑)。一度、仕事がうまくいったときに身に着けていたものをもう一度着用すると、ビジネスが思い通りに回りそうな気がしてきます。そのポジティブな気持ちがよい現実をつくり上げていくのでしょう。ファッションにはそうしたパワーが秘められていると思います。

――逆に縁起が悪くて手放したものはありますか。

もう二十数年も前のことでしょうか。買ったばかりのクルマがすぐにパンクし、それからも何度かパンクを繰り返したので、このクルマは運気が悪いと感じ1年も乗らずに手放してしまいました。クルマも人も運の悪いタイプが存在するようです。

私が尊敬する先輩経営者から「成功は運だけだ」と聞いたことがあります。私もそう思います。運だけが成功につながるならば、自ら運を連れてくる行動をする必要があります。そこで大事なのはチャレンジです。守っているばかりでは運がついてこないと思います。

――チャレンジという意味では、MS‐Japanは1990年4月設立ですから間もなく30周年を迎え、有本社長自身、また新たな気持ちと戦略をお持ちではないでしょうか。

まず、今の歩みを止めてはいけないと思っています。人材紹介業で管理部門職種と士業に特化した強みはより強固にしていくつもりです。ただし大きく事業を見たときには古いものは捨て、新しいものを積極的に取り込んでいかなければ前進できません。

当社はIT企業ではありませんが、AIなどの最先端技術に惜しみなく投資し、活用し始めています。現場のヘッドにはITに精通した人材がついています。どこよりも早く新しい技術に触れ、新しい波に乗っていかないと会社の未来はありません。

――企業が前進するなら社員も止まってはいられません。だから有本社長が前編でおっしゃったように、考え込む人材ではなく、感じる人材が望ましいわけですね。

感性の高い人は何に対しても興味や関心を持ちやすく、興味を持ったものは見たくなるし触れたくなり、関心を抱いたところへは行きたくなります。それが行動力につながる。そういう人材がたくさんいなければ企業は成長しません。

逆に、考え過ぎる人材が増えてくると組織に活力がなくなります。そういう人材をまかり間違って幹部に就けてしまうようなことがあると、企業は衰退するのではないでしょうか。

有本隆浩/Takahiro Arimoto
MS‐Japan代表取締役社長
1961年生まれ。85年、リクルートに入社し、人材採用の提案業務に従事。90年、日本MSセンター(現・MS‐Japan)設立。95年、人材紹介事業の許認可を取得し、管理部門特化型エージェントとして業界をリード。

text:Akifumi Oshita
photograph:Tadashi Aizawa
hair & make:RINO