――スタイリストが付いて、だいぶファッションが変わったそうですね。スーツなどの色合いも変化しましたか。

色は変わりません。昔からネイビーがベースです。今日のネクタイは私も好きだし、当社のコーポレートカラーに合わせてブルーを選びました。当社の保険はブランドごとにカラーが決まっています。がん保険は青、医療保険は緑、給与サポート保険は赤です。

新商品発表会ではその保険の色のネクタイを選ぶことがあります。私が社長になってまだ給与サポート保険の新商品は出ていませんから赤は締めたことがありません。壇上では吉沢亮さんや西島秀俊さん、櫻井翔さんなど格好いい俳優さんと一緒に舞台に上がりますからファッションにも気合を入れないといけません(笑)

――欧米の経営者は壇上での振舞いを大事にし、それを教えてくれるコンサルタントもいると聞きます。古出社長の場合はどうですか。

特に身振り、手振りを意識することはありません。一つ挙げれば、中学生時代に剣道をやっていたせいか声が大きくてよく通るのは私の利点かなと思います。お腹から声を出す癖がついたようです。以前、ベテランのアナウンサーの方から「声がいいですね」と褒められて、うれしかったですね。ただ、声が大きすぎて部屋で内緒話ができません。全部外に筒抜けになってしまう(笑)

――米国留学中のファッションの思い出はありますか。

ロースクールを卒業し、ニューヨークのローファームで研修を受けていたときのことです。プレステージの高いローファームで、マンハッタンのロックフェラーセンタービルの中に入っていました。クリスマスパーティーをビルの最上階のレストラン、レインボールームで開くのが恒例。その2~3カ月前に、私の研修の担当をしてくれたパートナーから「タキシードとブラックタイは持っているか」と聞かれました。銀行時代のスーツしか持っていなかったので、高級百貨店のサックス・フィフス・アベニューに出かけ、人生で初めてタキシードを仕立てたのです。

――ローファームでの研修は7カ月間とさほど長い期間ではありませんが、そのときのリーガル・トレーニングが印象的だったようですね。

弁護士が裁判官に対してどう訴えかけていくかを見られたのは大きな収穫でした。必ずしも裁判官はビジネスの知識に詳しいわけではありません。でも「ビジネスが理解できない人だから」では訴訟に勝てません。ビジネスに疎い裁判官にもうまく伝える卓抜した技術が裁判の行方を左右します。相手が知りたいことを理解しやすい言葉で伝えることが大事です。

優秀な弁護士は自分を裁判官に置き換えて物事を考えるのがうまい。つまり相対化する力があります。

――そのテクニックはビジネスの世界でも通用しそうですね。

使えます。たとえば米国からCEOが来日し15分間しかプレゼンの時間がないとき、こまごまと話してはいられません。自分がCEOになりきって、何を一番知りたいだろうか、どう説明を受ければ理解するだろうかと思い浮かべながらプレゼンの内容を考えます。

また他社と交渉するときは相手の視点に立ってみることも必要です。自分たちの立場でしか考えられないと、交渉はうまくいきません。資料を作るときも、相対化する力があれば、それは誰が見るのか、自己満足になっていないかとチェックできます。

――アフラックはこの国ですでに40年以上営業していて、売上では日本7割と米国を逆転していると聞きます。日本人にもなじんでいますから、日本支店から日本の株式会社に転換したからといって外からはそう変わった印象はありませんでした。でも内部的には前編にもあったように大きな変化だったのですね。

前編でお話しした日本で取締役会が開けるようになったことに加えて、日本で債券発行できるのも大きいですね。それによって経営の機動性が高まるし財務の戦略が立てやすくなります。

日本支店の時代は本国から資金を送金してもらう必要がありました。今年早速、債券を発行し資金調達しました。これは必要に駆られてというよりは、投資家のみなさんに“顔”を知っていただくためのマーケットデビューです。

――日本での株式会社化は喜ばしいものの、日本は人口減少や低金利など保険市場には厳しい環境にあります。これから先はどんな経営のビジョンを持っていますか。

短期的には、がん保険や医療保険などの第三分野に強いアフラックのポジションを今後も維持していくことです。今日、終身保険に代表される第一分野を中心にしてきた保険会社も厳しい環境にあり、第三分野に乗り出してきて競争が激化しています。その中でもアフラックが45年間積み上げてきた商品開発力と販売網、そしてブランド力をテコにこれからも第三分野のリーダーであり続けられるように手を打っていきます。

ヘルスケア事業強化に向けて、自らウェアラブル端末で健康状態を日々チェック

――中長期的なビジョンはいかがですか。

中期的には保険サービスを中核としながらも、その周辺サービスも開発し、提供していきたいと考えています。がんの早期発見から治療後の就労も含めた生活の質までをトータルに支援していくサービスです。


その布石としてヘルスケア分野のスタートアップ企業との連携を始めていますし、青山に「アフラック・イノベーション・ラボ」を創設し、新規事業開発に携わるチームとデジタル技術を使ったイノベーションを目指すチームを置いています。

ラボは自由な発想でイノベーションを起こしてもらいたいので365日カジュアルな格好で仕事ができます。

――確かにファッションも自由なほうが今までにない発想が生まれるかもしれませんね。

新しいサービスを生み出すには、服装だけでなく、今世の中で何が起きているかを実感する必要がありますし、さらに仕事のやり方も変えなければいけないと思っています。

今日も身に付けているウェアラブル端末は歩数や睡眠時間を記録し、健康状態を知るツールです。希望する社員全員に配り、トップ自らが使っている姿を見せて活用を促しています。社員本人の健康目的に加え、世の中で広がっているこういう新しいサービスを体験するのが大事だと思います。

――仕事のやり方も変えているのですか。

従来のように最初に3年計画、5年計画を立ててそれに沿ってプロジェクトを進めるウォーターフォール型の仕事のやり方では、だいたい途中で計画が遅れたりコストが上がったりと思うようにいきませんし、サービスが出来たときには時代のニーズから外れている危険もあります。

変化の速い時代に合うのは、プロジェクトを進めながら短期間で改善していくアジャイル型だと思います。新しいサービスだけでなく、既存の業務でも可能なものはアジャイル型を導入しています。仕事のやり方を変えると社員の意識改革にもなり、常に考えるマインドセットが生まれます。イノベーションを起こすには、このマインドセットが重要なのです。

古出眞敏/Masatoshi Koide
アフラック代表取締役社長
1960年、東京生まれ。84年東京大学法学部卒業後、日本長期信用銀行に入行。米コーネル大学ロースクールに留学し、ニューヨークで弁護士登録。98年アフラック入社。その後、いったん退社し、2008年に再度アフラックに入社。18年より現職。

text:Top Communication
photograph:Sadato Ishiduka
make & hair:RINO