――食品・飲料の会社のトップだから健康に見えるファッションが持論ですね。今日も黄色いネクタイです。
黄色は私の勝負カラー。ネクタイだけでなく社長室の扉やロッカーも黄色にしています。
――社長というポジションですから、やはり通常はスーツ姿が多いでしょうか。
そうですね。夏季はクールビズを採用しているので、私もたまにはジャケットのときもありますが、基本はブルー系かグレー系のトラディショナルなスーツです。スーツを着ると仕事モードに切り替わります。たとえ少し飲み過ぎた翌朝でも、スーツを着てネクタイを締めると気持ちがシャキッとします。ちょうど柔道着で帯をきゅっと締める、あの感覚に似ています。高校時代の部活のときも帯を締めると気持ちが引き締まったものです。
――入社当初からトラッドスーツを好んでいたのですか。
いえ、最初はアイビーファッションでした。当時、流行っていましたからね。でも、ある年齢になったとき、付き合いのある会社の人から「いつまでも学生に毛の生えたようなスーツを着ていては信用が生まれないよ」と注意され、トラッドに切り替えたのです。10年ほど前からはオーダーで仕立てるようになりました。一度採寸してもらえば体にピッタリのスーツを作れます。いいものをメンテナンスしながら長く着たいですね。
――メンテナンスで言えば、靴は毎週末、ご自分で磨いているそうですね。
人と会うときは第一印象が大切です。男性のファッションの中では、多くの人が靴に注目すると感じています。靴を磨く行為は無心になれて、とても良い気分転換になります。ときにはビジネスに関するアイデアを思いつくこともあります。
――まさに会社のキャッチフレーズにある、おいしい!(ヒラメキ)ですね。
私の役割はこの変化の激しい時代の中で、会社の方向性をきちんと示し、それに沿って現場が考え、行動できる環境を整えることです。
前編でお話ししたように、消費者の健康志向や簡便性への期待を十分に踏まえ、素材の強みや技術を商品開発にどう絡ませ「ヒラメキ」のある商品を展開していくかが重要です。
加えて営業者が小売店等のお取引先とコミュニケーションを密にし、お客様が当社の商品を手にする接点が増えるようにすることが必要です。料理にレモンを使えば減塩になるとか、より料理の味を引き出せるとか、そうした提案をしながら、当社の商品との接点を増やしていきたいと思います。
――ヒラメキが実のあるものになるかどうかは、市場や消費者の嗜好をきちんと捉えることが必要ですね。どういう方法で把握していますか。
市場や販売データと観察の組み合わせで消費動向を捉えるようにしています。週末、よくウォーキングをします。そのルート上に小売店があると、中に入って当社が扱う商品だけでなく、ほかの食品・飲料も含めて消費者が何を手に取っているかを観察してしまいます。観察して「売れているな」と感じる商品は、データ上でも注目しています。
――岩田社長の考え方を社員にはどう伝えていますか。
一人ひとりの顔を見ながら、私の考えを述べ、また相手の考え方を聞くのが基本的な姿勢です。管理職とは個別に面談し、中堅社員とは小グループで意見を交わし、現場で違和感や問題があれば聞くようにしています。そして夜は夜で、グループ会社のビールを片手に懇親会を開き、ざっくばらんに語り合います。
――2013年にポッカコーポレーションとサッポロ飲料が一緒になった会社です。歴史や文化が異なる社員が混在する会社のかじ取りは大変ではありませんか。
社員にはポッカコーポレーション出身者とサッポロ飲料出身者、ポッカサッポロになってから入社してきた社員もいます。さらにサッポロホールディングスからの出向者もいます。この4タイプの社員がいるわけです。もちろんお互いの歴史を知ることをないがしろにはできませんが、明日を考え、未来を見据えて経営を進めていくことが重要です。7年目でそうしたスタンスは社内に浸透したように思います。
実はポッカコーポレーションもサッポロ飲料も同年の設立で、2017年は60周年に当たり、しかもポッカサッポロ設立5周年でした。そのとき全社員が集いイベントを開きました。元の会社の違いや部署の違いを乗り越えて親しくなれました。それまで電話やメールでしか名前を知らなかった社員同士が、「ああ○○さん」と直に会って話せた貴重な機会でした。
――フェイスツーフェイスのコミュニケーションは重要ですね。ポッカコーポレーションが創設以来、素材のレモンにこだわってきた一方で、岩田社長の出身であるサッポロビールも大麦やホップなどの原料の育種・栽培から関わる、世界でも珍しいビールメーカーです。素材重視の点で似たアイデンティティがあるのかもしれませんね。
そういう面もあるかもしれません。レモンに関しては、今年4月から瀬戸内海の大崎上島町(広島県)で国産レモンの栽培を始めました。今、国内のレモン農家において高齢化や後継者不足などの影響から生産や供給が不足しています。そこで私たちもどうにかしたいとレモン栽培に乗り出した次第です。レモンのことならなんでも聞いてくれ、任せてくれという会社になりたいですね。
岩田義浩/Yoshihiro Iwata
ポッカサッポロフード&ビバレッジ 代表取締役社長
1961年生まれ。東京都出身。84年に慶応義塾大学法学部を卒業後、旧サッポロビール入社。2011年サッポロホールディングス経営戦略部長を経て、14年サッポロインターナショナル社長に就任。17年より現職。