高級時計の歴史が見える――ブレゲ BREGUET
ブレゲの創業者アブラアン=ルイ・ブレゲがパリで頭角を現した18世紀後半、高級な時計といえば、寓話の世界や戦勝記念のモチーフ等を装飾したケース、時間目盛りのローマ数字と分目盛りのアラビア数字が配された文字盤、華美な意匠を持つ短くて太い針、というものだった。そんな時代の中で、駆け出しの時計師のころから機構にも外装に対しても無駄のない洗練されたものを求めていたブレゲは、読み取りやすい上品なアラビア数字と、月の満ち欠けを思わせる丸い穴の空いた輪を先端に持つ細長の針を考案する。現在も高級時計に使用されるブレゲ数字とブレゲ針の誕生である。1783年のことだ。またギヨシェ彫りを考案したのもこのころのことで、彼はこの手法をまずケースで試みた。ケース表面にシルクのような光沢をもたらし金属の反射も抑えるギヨシェは、手にしたときの感触も素晴らしく瞬く間に広まった。この美しい装飾が一九世紀になると文字盤へ転用されていくのである。
重厚感の演出や絢爛豪華な装飾が重宝された時代に、シンプルで見やすく、なおかつエレガントな意匠を求めたアブラアン=ルイ・ブレゲは、技術者として超一流だっただけでなく、感性の面でも先進的なセンスを持つクリエーターだった。その創業者のDNAを受け継ぎモダンな進化を遂げた現代のブレゲの新作がこちら。内部機構に関する発明精神に加え、書体や針の太さ・長さ、ギヨシェのパターンにより古典的でありながら古めかしく見せないセンスが現代のブレゲらしさだ。
※本記事は『PRESIDENT』2016年7.12号に掲載された記事をweb用に再編集したものです。