日本でも中古市場のテストを開始

オーデマ ピゲが“最高峰”ブランドであり続けるために必要なことに、人材の確保を挙げたベナミアス氏。さらにもう一つ、今年から着手することがあるという。

「ブランドの価値を映し出す鏡の一つが、セカンダリーマーケット(中古市場)だと考えている。そのため今年中に4カ国でテストを行う予定だ。4カ国とはスイス、アメリカ、シンガポール、そして日本。新品を販売するのと同様に、セカンダリーマーケットでも時計の行き先をわれわれがしっかりとマネージメントできるようなあり方を、時間をかけてテストしていく」

日本を選んだ理由は「好調なマーケットだから」。銀座ブティックの2月の売上は世界全店舗の月間売上記録を更新したという。昨年オープンした大阪ブティックも「クレイジーグッド」とのこと。

高級時計の中古市場の規模は、新品の10倍とも20倍とも言われている。それだけ中古品が出回っているにもかかわらず、ブランドが正式に自社製品だと認定し、機械の状態や正常な作動を保証した時計、いわゆる正規認定中古品を手がけているブランドはごくわずかである。大半は時計店や中古品取扱業者がユーザーなどから買い取って(あるいは受託して)販売しているものだ。つまり、中古品がどのような状態か、いくらで販売されているか、元の所有者はどんな人物か、といった部分に、ほとんどの時計ブランドはこれまでノータッチだったのである。

「ロイヤル オーク・トゥールビヨン・エクストラシン」ケースとストラップはチタン&プラチナ、ベゼルはプラチナ。ケース径41mm。手巻き。価格は要問い合わせ。

すべては家族経営であればこそ

「テストの内容はまだシークレット。近く発表できると思う」と、詳細は明かさなかったものの、ベナミアス氏の構想はおそらく、中古品を自社で取り扱うことで価格の下落や品質の低下を防ぎ、ひいてはブランド価値の維持・向上につなげるというもの。実現するには多くの手間ひまと資金を要し、その割に実入りが少なく、さらに新品の売れ行きに影響を及ぼす懸念もあるものの、それでも中古市場の改革に挑むのは、家族経営ゆえの長期的なブランディングを見据えてのことだろう。

他方、ユーザーからすれば正規認定中古品は多くのメリットがある。憧れの高級時計が身近になる価格的な魅力、動作不良など中古時計につきまとうリスクが払拭されること、購入後にブランドの正規メンテナンスが受けられる安心感、そして将来的にもブランドの価値が保たれるだろうこと……などである。

高級消費財の中でも、とりわけ機械式時計はメンテナンスさえ欠かさなければ数十年と使用できるもの。だからこそ長期的な視点で選ぶことも重要になる。「家族経営、真面目に楽しく、そしてフリースピリットという点がオーデマ ピゲの特徴」というベナミアス氏の言葉に共感を覚えるなら、今後の展開に期待して注目してほしい。

text:Hiroaki Mizuya(d・e・w)
photograph:Hisai Kobayashi