時計業界の傑物か異端児か、イノベーターなのか、あるいはその逆か……。この人の周辺は常に話題に事欠かず、いくつものセンセーションが巻き起こる。ラグジュアリー業界の大手コングロマリット、LVMHウォッチ部門プレジデントにしてタグ・ホイヤーCEO、ジャン-クロード・ビバー氏のことだ。

ビバー氏は2014年にタグ・ホイヤーのCEOに就任すると、それまでも十分に勢いのあったこのブランドをさらに加速させた。マーケティング面では世界的なアスリートやミュージシャンとのパートナーシップを次々と発表し、プロダクト面でも精力的に新作を開発。とりわけ業界人や関係者の注目を一気に集めたのが、2016年発表の「タグ・ホイヤー カレラ キャリバー ホイヤー02T」だった。フライングトゥールビヨンとクロノグラフを搭載し、高性能の証しであるCOSC(スイス・クロノメーター検定協会)認証を取得したモデルが100万円台という価格に誰もが目を丸くした。

バーゼルワールドで世界中のジャーナリストを前に記者発表を行うビバー氏。68歳と思えぬバイタリティーにあふれ、パワフルにタグ・ホイヤーを牽引している。

2016年、「フライングトゥールビヨンが100万円台」に業界騒然

トゥールビヨン機構とは、姿勢差による精度誤差を低減することを目的に発明された時計の複雑機構の一つ。そのうち、回転するケージを支えるブリッジが見えず、ケージが宙に浮いているような仕様のものをフライングトゥールビヨンと呼んでいる。ほんの5、6年前までは、フライングトゥールビヨンといえば1000万円近くする超高級機構であり、現在でも500万円を切れば「お買い得」と言われる類のもの。そんな中でタグ・ホイヤーが100万円台のモデルを出してきたのだから、驚かないわけがない。「ビバーが価格革命を起こした!」と業界内は騒然となった。ビバー氏のもとにスイス高級時計業界の要人からクレームが届いた、という噂まで飛び交ったほどだ。

前置きが長くなった。タグ・ホイヤーが2018年のバーゼルワールドで発表した新作「タグ・ホイヤー カレラ “テットゥ ドゥ ヴィペール”クロノグラフ トゥールビヨン」は、2016年のカレラ キャリバー ホイヤー02Tと同じフライングトゥールビヨン・ムーブメント「ホイヤー02T」をブルーセラミック製ケースに内蔵したもの。前作はチタン&カーボン製だったためスポーティー感が強かったが、新作は光沢のあるセラミック製になったことにより、オン・ビジネスの装いにも合わせられるスポーティー・エレガントな仕上がりとなっている。

スイスではなく、フランスのクロノメーター認証を取得した意味

さらに、新作発表時にビバー氏が強調したのは「フランスのクロノメーター認証取得」という点。その意味はフランスのブザンソン天文台による品質検査をパスしたということである。COSCの検査はスイス・クロノメーター検定協会というスイス国内の機関が行うが、ブザンソン天文台の検査は国際度量衡局という国際的な機関が行っている。その最大の違いは、COSCはムーブメント個体で検査を行い、それをパスしたものをケーシングするというプロセスであるのに対して、ブザンソン天文台はムーブメントをケーシングした後、つまり腕時計完成品で各種検査を行う点にある。ケーシング後のほうがより実際の使用に近い状態での検査となり、その分だけ品質規格の信頼性は高い。今年のモデルはクオリティーの面でも前作から向上が図られているわけだ。そして、その証として「テットゥ ドゥ ヴィペール(ヘビの頭)」という刻印がブリッジに付けられている。

2016年のカレラ キャリバー ホイヤー02Tよりもプライスが若干上がり200万円台となったが、それでも“フライングトゥールビヨンを普段使いする”なんていう贅沢に最も近い時計であることは間違いない。

このモデルにも注目!

国際派のビジネスパーソンに薦めるなら、「タグ・ホイヤー カレラ キャリバー ホイヤー02 クロノグラフ GMT」を。自社製のキャリバー(ホイヤー02)をベースとし、そこにGMT機構を加えたもの。シースルーダイヤルから覗くメカのアクティブさと、バイカラーのセラミックベゼルの組み合わせがクールだ。

「タグ・ホイヤー カレラ キャリバー ホイヤー02 クロノグラフ GMT」。ケース、ブレスレットはステンレススティール。ケース径45mm。自動巻き。65万円(税別・予価)。2018年11月発売予定

国際派のビジネスパーソンに薦めるなら、「タグ・ホイヤー カレラ キャリバー02 クロノグラフ GMT」を。上述のフライングトゥールビヨンと同じ自社製のキャリバー(ホイヤー02T)をベースとし、そこにGMT機構を加えたもの。シースルーダイヤルから覗くメカのアクティブさと、バイカラーのセラミックベゼルの組み合わせがクールだ。

text:Hiroaki Mizuya(d・e・w)