高級時計ブランドがリピーターに向かう理由

――鳴り物系の時計が流行っている印象があります。少し前まではトゥールビヨン※が複雑機構の代表のように流行って、多くのウオッチメーカーが競って製造していました。そして今、ファインウオッチメーカーはこぞってミニッツリピーターに力を入れています。そこにはどんな背景があると思いますか?

【ジュリオ・パピ氏(以下パピ)オーデマ ピゲは142年前に創業し、当初より複雑時計をつくるという方向性でスタートしました。以来、常に複雑機構の開発に心血を注いできており、その一つがミニッツリピーターです。ミニッツリピーターをつくる技術は(昔から今に至るまで)常にオーデマ ピゲの中にあります。そして、ミニッツリピーター製造の独自技術を、パテック フィリップもヴァシュロン・コンスタンタンもそれぞれ持っています。

この3ブランド以外にもリピーターをつくる動きが目につきますが、それは、もはやトゥールビヨンでは際立って差別化ができず、時計技術の粋であるミニッツリピーターのほうが良いビジネスができると考え始めたからではないでしょうか。ただ、それらのメーカーが5年や10年くらいでトップクラスの技術水準に到達できるとはちょっと考えにくいです。

※トゥールビヨン……機械式時計は、着用中の姿勢により重力を受ける方向が変わるため、時計の精度に誤差が生じる。その誤差を抑えることを目的とした複雑機構。

ジュリオ・パピ氏。
クローディオ・カヴァリエール氏。

――ブランドアンバサダーのカヴァリエールさんは、こうしたミニッツリピーターの流行をどうとらえていますか? いまはジャガー・ルクルトもブルガリもパネライも、そしてショパールもミニッツリピーターをつくっています。

【クローディオ・カヴァリエール氏(以下、カヴァリエール)ミニッツリピーターのように技術的にハイレベルな時計は、時計愛好家からすればこれ以上は望めない、いわば頂点の時計です。数千万円もする高額商品ですから、頂点の時計を手に入れたいと考える時計愛好家の耳目がおのずと集まります。ビジネスの面だけでいえば、このような特別な時計を製造し売ることができれば、これまで接触することがなかった顧客層にリーチできるようになります。

ただし「スーパーソヌリ」のレベルに達するには、まず膨大な時間、経験の積み重ねが必要です。ミニッツリピーターは音が勝負。人間の耳は微妙な音の狂いでも敏感に聴き分けることができます。時計マニアでなくとも、たちどころに狂いを知覚してしまう。機能として十分な音量があり、リズムがいささかも狂うことなくゴングを打ち、心地よい音質で響く、そんな音のパフォーマンスを創出するのは容易ではありません。したがって時計愛好家の要求も厳しいものになります。

オーデマ ピゲは伝統のあるブランドであり、経験の豊富な蓄積があります。進化のために乗り越えるべきは自分たちの経験であり、今ある成果です。いつも目標は明確なのです。それがほかにない強みであり、競争力の源泉です。