弦楽器の名器をつくるようなアプローチ

――オーデマ ピゲの歴史は、リピーター開発の歴史と言ってもいいくらいです。懐中時計に搭載していた時代、1892年に機構を極小化して腕時計に搭載した時期、それから現代の複雑時計版ミニッツリピーターと、とても長い歴史があります。
当然、こうした歴史や実績を踏まえての「スーパーソヌリ」のプロジェクトだったろうと思うのです。一昨年のコンセプトウオッチ、そして昨年発表の「ロイヤル オーク コンセプト・スーパーソヌリ」、そして今年はクラシックラインの「ジュール オーデマ」に同機構を搭載した「ジュール オーデマ・ミニッツリピーター・スーパーソヌリ」を発表しましたね。この一連の流れの中で、スーパーソヌリではいままでのリピーターとは違うなにか画期的なことをやろうとしたのでしょうか? そうだとすれば、新しいリピーターの新奇性、革新性とは何なのでしょうか。

【パピ】150年前は人工的な照明もありませんから、夜ともなれば暗闇の世界。当時は、音で時間を告げるというリピーター機能は実用的な機能でした。ところが現代ではそんな機能は実用としての意味はほとんどありません。ロマンチックな、あるいは趣味的な役割が大きいと言えます。

かつての“時刻を告げるツール”としての役割はなくなったけれども、可憐な音を聞けば気持ちが癒やされます。素敵な絵を見て心が和むのと同様に、耳に心地よい音は心を洗ってくれます。

かつては時刻を告げるというタイムツールとしての役割が第一義だったとはいえ、可憐な音を聞いて気持ちが癒やされるということがなかったわけではありません。素敵な絵を見て心が和むのと同様に、耳に心地よい音は心を洗ってくれる。リピーターの音を聞いて芸術的な小さな感動を感じることもあったはずです。

ましてや、音そのものの美しさを楽しむことが重視される現代のリピーターにあっては、純粋に音響の側面からアプローチする必要がありました。リピーターの音を通じて感動をもたらさなければならないのです。これまでも音量や正確なリズム、ノイズ軽減など、音にはこだわってきましたが、今回は「音質そのものをコンセプトとする」というくらい、音のクオリティーに徹底的にこだわっています。そのためにアプローチは音響工学的であり、アコースティックの楽器開発に近いものでした。クラシックギターの名器でいえば、トーレスだ、ラミレスだ、バイオリンでいえば、ストラディヴァリウスだ、ガルネリウスだなどといいますね。それくらい音の響きにこだわって楽器の名器をつくるような意気込みで作りました。

そのためにローザンヌ連邦工科大学とコラボレーションし、音響学者・研究者、音楽学院の教授、弦楽器職人と時計師たちという、時計開発のチームらしからぬ編成で開発に当たったのです。

「ジュール オーデマ・ミニッツリピーター・スーパーソヌリ」。2017年SIHH(ジュネーブサロン)で発表されたミニッツリピーターの新作。昨年登場の「ロイヤル オーク コンセプト・スーパーソヌリ」からクロノグラフ、トゥールビヨン機構を外したムーブメントを搭載。ケース裏蓋の側面には音の拡散のためにオープンワークを施すなど「スーパーソヌリ」機構は同一。クラシックな風情に風格あり。●プラチナ。ケース径43mm。手巻き。アリゲーター・ストラップ。時価<オーデマ ピゲ ジャパン>