エレガンスの解釈――カルティエ Cartier
カルティエは2016年、複雑時計のコレクションに新型ムーブメントを二型開発して、スケルトンモデルの進化形とアストロトゥールビヨンとミステリーウォッチを合体させた、まさにカルティエならではのコンプリケーションを追加した。さらにそれのみならず、カルティエでは初のクッション形ケースのメンズウォッチ新コレクションをも発表している。
総じてどのブランドも、景気の先行きが不透明な中、新規の開発には腰が引けた感のあった2016年春の新作発表会では突出していた。ハイジュエリー系やエナメルなどの伝統的な技法を駆使してアート作品を描き上げるメティエダールの分野で圧倒的な力量を見せつけるのは毎度のことだが、機械式時計の分野でも開発力にものをいわせるプレゼンテーションである。
男性用腕時計の発明者であったカルティエだが、その後再び機械式ムーブメントを製造し始めるのは10年足らず前のことだ。2008年に自社製フライングトゥールビヨン・ムーブメントCal.9452MCを開発してマニュファクチュールを宣言してから、いまやベースとなる汎用ムーブメントからコンプリケーションまで、なんと45型を持つまでになっている。
他ブランドからムーブメントの供給を受けることから始まったカルティエの機械式時計への返り咲きだが、歴史ある大メゾンが本気で何事かに取り組むと老舗のファインウォッチメーカーをも容易に脅かすということだ。そして誰もが認めるところだが、エステティクスのセンスは圧倒的である。
新コレクション「ドライブ ドゥ カルティエ」はカルティエならではのクラシシズムを基本に、エレガントであると同時にスタイリッシュ。ケースやダイヤルなど細部の仕上げの美しさに、由緒正しい高級感が漂う。
※本記事は『PRESIDENT』2016年7.12号に掲載された記事をweb用に再編集したものです。