コンテンポラリーを新素材で提案――AUDEMARS PIGUET オーデマ ピゲ
新奇なだけでは新素材ならず
ガンギ車やアンクル、ひげぜんまい等、ムーブメントの心臓部にシリコン素材を使うのはいまや珍しいことではない。けれども精度を求め堅牢性を求め、新技術の開発に注力怠りないオーデマ ピゲではあるけれども、異な事にいまだ新素材のシリコンを重要部分に使うことはしていないのだ。オイルフリーなどのシリコンの利点を認めつつもメタルに比して割れやすい、欠けやすいという欠点もあるのだという。そして時計使用後何年かしてパーツを交換しなければならない不具合が起こったときに、その予備があればいいが、なければ1点でも製作できるのがメタル部品。シリコンは一定の量がなければ製作できない。そうしたアフターケアを考慮するといまの段階ではシリコン採用とはいかないのだという。
2017年のオーデマ ピゲ新作の目玉が「ロイヤル オーク・パーペチュアルカレンダー」である。永久カレンダーはオーデマ ピゲ自家薬籠中のコンプリケーションである。1955年、世界初の閏年表示機構を搭載したモデルを発表して以降、歩一歩技術を積み上げながら精度を高め、新機能を付加し、使い勝手を改良し、永久カレンダーを進化させてきた。
新素材の黒が複雑時計をいまっぽく変える
その一つの到達点が一昨年発表された「ロイヤル オーク・パーペチュアルカレンダー」である。ムーブメントは永久カレンダーという複雑機構に、125年と317日に一度調整すればよい高精度でアート的な表現のムーンフェイズ、52週表示など便利機能を付加したCal.5134。厚さわずか4.31ミリ。技術の粋であり、装着感も素晴らしい。
2017年の新作は同型キャリバーを搭載するが、ケース、ブレスレットがブラックセラミックというオーデマ ピゲにとっては初めての素材を使っている。セラミックはSS素材の加工に比べるとおよそ5倍の時間がかかるという。この硬い素材を加工し手作業で仕上げていくのだが、何といってもスクラッチが入らない、熱の変化に強く経年変化がないという利点があった。オーデマ ピゲのお眼鏡にかなったということか。
※本記事は『PRESIDENT』2017年6.26号に掲載された記事をweb用に再編集したものです。