技術の進化には階段を一段ずつ上がるようなタイプもあれば、一気に飛躍して新たなスタンダードを確立するようなタイプもある。今回取り上げるゼニスの「デファイ エル・プリメロ 21」はまさに後者にあたり、いま注目の的になっている。

この時計に刺激を受けるのは、こんな男だ!


・機械式時計の最先端を体感したい人
・精密機器に魅かれる人
・洗練されたスポーティルックを好む人

どこが飛躍的な進化なのかというと、それは機械式の腕時計で100分の1秒単位の計測ができる点である。1969年に誕生した「エル・プリメロ」は、10分の1秒が正確に計測できる精密ぶりで名声を確立したが(本連載第8回参照)、2017年に量産モデルとして発表されたこのデファイ エル・プリメロ 21では、なんと100分の1秒にまで計測精度が細分化されたのである。

ダイヤルの外周に100分割された目盛りを配置。クロノグラフ針の停止位置で100分の1秒が読み取れる
6時位置に置かれた60秒カウンター。センターのクロノグラフ針が1周するごとに秒数を積算していく

この100分の1秒までの時間計測を可能にしたのは、時刻表示用の装置とクロノグラフ計測用の装置を独立させるという思い切った発想だ。少々専門的になるが、このモデルに搭載された新型ムーブメントは、毎時3万6000振動の時計部分のテンプと、その10倍に相当する毎時36万振動のクロノグラフ用のテンプという2つの独立した調速機構を備えている点を最大の特色とする。通常のクロノグラフは、時計の作動機構からクラッチを介して機能するようになっているが、時計からクロノグラフを分離し、別系統の動力、輪列、調速脱進機で動かす仕組みへと変えたおかげで、毎時36万振動のクロノグラフ用テンプで100分の1秒刻みの計測機能を可能にしたのである。要は、時計用とクロノグラフ計測用の2つの機構が、ひとつのムーブメントのなかに同居している仕組みなのだ。

最先端技術を駆使したムーブメント、エル・プリメロ 9004は、完全に異次元の設計。写真右側手前に時刻表示用のテンプを、その奥にクロノ計測用のテンプを備える

「デファイ エル・プリメロ 21」は、実際に触って、見て楽しめるところが、なんといっても魅力である。まずスタートボタンを押すと、センターのクロノグラフ秒針がダイヤル上を滑るように動き、1秒で1周する。基本的に1分で1周する通常のクロノグラフと比べると、60倍も早い高速回転ながら、意外と目で追えるのはちょっとした驚きである。

スピーディなクロノグラフの運針が物欲を刺激する!

ダイヤルには外周に100等分の目盛りが配置されているので、ストップ操作でクロノグラフ秒針が指している数値が100分の1秒単位の経過秒数になる。針が1周してからの秒数は、6時位置のカウンターで積算表示する。二つを合わせて、例えば(上の動画のように)17秒36といった計測値が読み取れる仕組みである。

1秒で1周するクロノグラフ針の動きを見ているだけでも楽しいし、陸上競技や水泳競技、カーレースなどで実用的な計測ツールとして使ってみるのも一興だろう。ダイヤルを省いて内部のムーブメントを見せた前衛的な顔つきと相まって、時代の先端をゆこうとするビジネスパーソンのシンボルになるクロノグラフである。

働く男を刺激するクロノグラフ#11
ゼニス「デファイ エル・プリメロ 21」

チタンケース。ケース径44mm。自動巻き。10気圧防水。アリゲーター×ラバー・ストラップ。128万円(税別)

フルオープンのダイヤルから細部まで見渡せる新設計のクロノグラフ・ムーブメント、エル・プリメロ9004は、毎秒10振動の時刻表示用脱進機と、毎秒100振動のクロノグラフ用脱進機を搭載する。3時・6時位置のカウンターはそれぞれ30分と60秒の積算計。12時位置にクロノグラフ駆動用のパワーリザーブ表示を備える

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