――e‐Bikeはいつごろから注目されるようになったのですか?
【鶴田】e‐Bikeそのものはドイツなど欧州で2010年頃から出始めていました。日本で一気に注目を浴びるようになったのは2017年からです。通勤途中に坂の多いコースがあるからとか、マウンテンバイク(MTB)をもっと気軽に楽しみたいとか、そんなニーズがあります。
――確かに店内を見るとロードタイプやMTBタイプなど様々です。どんな方たちが購入しているのですか?
【鶴田】大まかに二手に分かれます。一方は、今までロードバイクやクロスバイクを乗っていたけど、50歳、60歳になってちょっと坂道を上がるのがきつくなったという人たちです。なかには膝が悪くなったからという方もいます。方や、今まで電動アシストのママチャリで子どもを保育園に送り迎えしていたが、その必要がなくなり、同じ電動でもカッコいい自転車に乗りたいと思う人たちがいます。40代の人が多いですね。
――ふつうのロードバイクやクロスバイクに比べて、e‐Bikeが最も優れているところはどこでしょうか?
【鶴田】何と言っても坂を上るのがすごく楽な点です。平坦な道を走るのと同じ感覚で漕げます。電動アシストのおかげでペダルが重くなりません。平坦地と坂道が境目なくつながっている感じです。目の前に上り坂が見えても「ああ、きつそうだな」なんて思う必要はありません(笑)。峠の頂上の景色のよいところまで汗をかかずに上れるんですから。
e‐Bikeは速度が10キロ以下のときに踏み込む力「1」に対してアシストが「2」と最大で、10キロを超すとアシストがだんだん弱くなる機構になっています。そして24キロ以上になるとアシストが利かない仕組みです。アシストのせいでスピードが出過ぎることもありません。ペダルを踏むと一番初めに回転するペダルの軸の部分(BB=ボトムブラケット)や車輪にセンサーが付いていて、リアルタイムで分析しアシスト量をこまめに調整してくれるのです。
――e‐Bikeはコンピュータを載せたスポーツバイクといった趣ですね。気になるのは走行距離です。行きはラクラクだけど、帰りはバッテリー切れで、重い自転車を漕いで疲れるなんてことはありませんか?
【鶴田】バッテリーの大きさにもよりますが、50~60kmくらいは十分持ちます。なかには、本当に必要なときだけアシストを使えば200kmを超えるバイクもあります。もちろん、これはカタログ値ですから登りっぱなしなら早くバッテリーが切れてしまいます。逆に平坦地でアシストをオフにして走れば節約できます。
充電は家庭用電源が使え、バッテリーの大きさによって100%充電されるまで1~4時間くらいが目安です。e‐Bikeには付属メーターが付いていて、そこにバッテリー残量や後どのくらい走れるかも表示されますからそれを参考にできます。
――e‐Bikeの魅力が分かってきました。夫婦やカップルでツーリングに出かけると女性が置いていかれるから楽しくないという話をよく聞きますから、女性だけe‐Bikeに乗るのもいいかもしれませんね。今度は坂で男性が置き去りにされるかもしれませんが(笑)。それではお薦めの5台を教えていただけますか。
【鶴田】最初の1台は台湾ブランドのBESV(ベスビー)の「JR1」です。一般のスポーツバイクに乗っている人たちには馴染みがないブランドかもしれません。でもe‐Bikeの世界では有名です。各パーツを自社開発しているのが強みで、たとえばフレームとバッテリーが一体型になったすっきりとしたデザインを実現しています。また、親会社がコンピュータのマザーボードをつくるIT企業で、とりわけ電装系に強いメーカーです。モーターが車軸についてる関係で、踏み込むとダイレクトにアシストが効いてグイッと力強く発進します。
――バッテリーが張り出していませんから、ふつうのロードバイクの形にかなり近く、スマートさを感じます。電装系に強いというだけあってケーブル周りもすっきりしています。
【鶴田】BESVからもう1台、ユニークなe‐Bikeを紹介しましょう。「LX1」です。
――なんですか、これは! フレームのうち後ろのほう、シートを支える部分がない。今までのスポーツバイクでは考えられないスタイルです。
【鶴田】近未来的なデザインですよね。この形でも強度は十分。サドルに乗ってみると見た目とは違って意外とカッチリ固定され不安感はありません。フロントにサスペンションが入っていて段差にも強いですよ。フロントライトとメーターが一体になっているのもセンスを感じます。
――デザインのBESVですね。e‐Bikeに日本製はないのですか。
【鶴田】日本ブランドも頑張っていますよ。元々電動アシストに強いYAMAHA(ヤマハ)からは、ロードタイプの「YPJ‐ER」を紹介しましょう。モーターがBBのところについていて、踏み込んだ力を感知してそれにふさわしいパワーを出してくれます。BESVがグイッと発車するのに対して、穏やかに走り出します。大容量バッテリーを備え、カタログ値ではハイモード(93km)、スタンダードモード(111km)、エコモード(152km)とかなり長距離走行ができる数値になっています。
――これなら通勤だけでなく、ロングライドにも使えそうです。
【鶴田】趣味性の高い“オールジャパン”e‐Bikeもありますよ。自転車問屋のFUKAYA(フカヤ)がつくる「DAVOS(ダボス)E‐600」です。フレームは自社製、駆動系やホイールはシマノ製、ハンドルは日東製など、日本の自転車づくりの粋を集めた1台です。e‐Bikeの大半がアルミ製のところ、これは珍しいクロモリ(鉄合金)で、乗り心地が柔らかいところも特色です。
【鶴田】キャンプツーリングを楽しめる設計が施されています。シート下から前に伸びるトップチューブ上にはダボ穴が5つ付いていて、それを使って荷物を載せることができます。前タイヤを支える両側のフロントフォークにもダボ穴が付いていて、ボトルを装着できます。従来、キャンプ用品を載せる自転車はキャリアを取り付けて前輪・後輪の両側に荷物を付けるのが一般的なスタイルでした。それに比べると荷物のつけ方もオシャレな感じです。
――e‐Bikeという先端のスポーツバイクでありながら、クロモリのフレームだから細いシルエットが可能なところや、カラーがシルバーである点がすごく自転車らしさを醸し出しています。いい味の出た1台ですね。
【鶴田】最後のe‐Bikeもかなり個性的ですよ。MIYATA(ミヤタ)の「リッジランナー」です。
――これは存在感がある。
【鶴田】ダートを上り下りするためにあるようなe‐Bikeです。サスペンションの利きもいいし、タイヤがワイドでグリップ力が強い。低速でのアシスト力が抜群で、急な坂もぐいぐいと上ってくれます。手元のレバーでシートの高さを変えることができ、上りはサドルを高くして座り、下りはサドルを落として立ったまま駆け抜ける、そんなMTBならではのアクティブな走りを実現します。
ただし注意点が1つ。バイクが暴れないように両手で押さえる力をしっかりと伝えるため、ハンドル幅がかなり広くなっています。これだけの幅だと車道はいいのですが、歩道や自転車専用道路は原則走れません。
――街から離れてこそ真価を発揮するバイクですね。5台とも、これからスポーツバイクを購入する人には有力な選択肢になりそうです。最後にロード乗りの大きな楽しみであるカスタマイズは、e‐Bikeの場合、どうでしょうか。
【鶴田】ロードバイクではギア周りを変えたり、ホイールを変えたりはよくあることです。でも、e‐Bikeでそれをやるとセンサーの分析が誤ってしまい、適切なアシストができなくなる危険もあります。一方、直接アシストに関わらないシートやグリップを交換することはできます。このように従来のスポーツバイクとは勝手が違うところもあるので、詳しいことは売場で聞いてほしいですね。
text:Akifumi Oshita
photograph:Ryo Yonekura