マツダがいま変わりつつある。アクセラの後継車になるミドルサイズの「マツダ3(スリー)」を発表したあと、7月にはアテンザを「マツダ6」に、デミオを「マツダ2」と名称変更した。

マツダ3は完全な新型車だ。「新世代商品の第一弾として、あえて車名にマツダの名を入れました」という触れ込みで登場し、メーカーが「自信作」と胸を張るクルマである。

なにをもってマツダは「新世代」というのか。端的にいうと、クルマづくりの発想を新しくしたところにある。2019年5月24日に発売された、全長4.5メートル前後のミドルサイズのファストバックとセダン「マツダ3」では、人間が持つバランス能力を最大限に引き出すことを追求したと謳われる車両構造技術と、操縦性が注目に値する。

試乗したのは、1.8リッターの4気筒ディーゼルターボエンジンを搭載したファストバックだ。「スカイアクティブD」と呼ばれるこのエンジンは、85kW(116ps)の最高出力と270Nmの最大トルクを発生させ、6段オートマチック変速機が組み合わせてある。

低く構えているうえ、バンパーを隠した大胆な造型がフロントの特徴

走り出しはスムーズで、最大トルクは1600rpmから発生することになっているが、2500rpmあたりがもっともアクセルペダルの踏み込み量へのレスポンスが高く、そこを意識するとかなり力強く走れる印象を受けた。

ターボチャージャーは一基で、2000rpmを超えてからもりもり力が出てくるかんじである。変速機は6段オートマチックで、ギア比は3速で直結、4速から上はオーバードライブと燃費を意識している。実際にWLTCモードで前輪駆動車の燃費はリッター19.8キロとかなりよい。

感心したのは、乗り心地のよさだ。今回は車体の剛性を上げるとともに、うまく車体をねじることでハンドリングに寄与する設計が特徴というだけあって、操舵への応答性は高く、すこしステアリングホイールを切ると車体は反応よくノーズが向きを変えていく。

振動や車体の上下動に唐突さはなく、すーっと水の上を走るように動く。これが走り出したときに、なにより感心されられたところである。ステアリングホイールを切ったときに車体が傾いていくロールスピードが比較的スローだ。「人間の感覚に合うように設定しました」と開発主査の別府耕太氏は説明してくれた。

「マツダ3」では、人間の歩きかたを大いに参考にしたという。「人間は歩いたり走ったりしても、その振動や揺れで酔ってしまうことはありません」とマツダではする。「それは人間が、足・骨盤・脊柱をコントロールして身体のバランスを取り、頭の揺れを抑えるという高度な能力を持っているからです」

試乗会の会場では、人間の骨格模型まで持ち出されて、いかにマツダの開発陣が人間の動きを「マツダ3」の走りに取り込むべく努力したかが説明された。接着材を多用して、硬いばかりでなく、路面からの力を滑らかにドライバーの骨盤に伝えるボディとシャシーを作ったのが一つという。

シートはからだにぴったりフィットする印象/リアシートは着座位置が高くなって居住性が上がっている

もう一つは、ドライバーの運転姿勢に寄与するシートの開発だ。脊柱がS字カーブを保つように骨盤を立てて着座できることをセリングポイントとしている。メリットは、路面からの衝撃に対して自然に頭部を安定させることが出来、さらに、からだを支える余計な力も必要なくなるため、長時間のドライブでも疲労が少ないのだそうだ(ロングドライブは未経験)。

セダンは2リッター4気筒の「SKYACTIV‐G 2.0」に乗った。こちらも前輪駆動で6段オートマチック変速機搭載モデルだ。115kW(156ps)の最高出力と199Nmの最大トルクというスペックを持つ。過給器がないので爆発的なパワーはないが、実用域でのトルク感は充分と感じた。無理なくスムーズに回転があがるところに、ガソリンエンジンのよさがきちんとある。

セダンはショートデッキのデザインで躍動的な印象だ

セダンは全長4660ミリとサイズは比較的大きい。凝縮感の高いスタイリングなので、写真だとコンパクトに見えるが、実際には余裕あるサイズだ。後席の広さも充分で、しかもアクセラより着座位置が高くなるなど使い勝手ははるかによくなっている。

「マツダ3」で感心するのは、室内の作りのよさだ。そもそも遮音対策にすぐれ、エンジンから発生する音はほとんど聞こえてこない。加えて各部の作りこみは、マツダ車ならではというか、従来のモデルより少なくとも一段階は質感が上がっている。

上質感が高いホワイトレザー仕様も

スイッチ類を極力目だたないようにしたクリーンな造型と、素材感をうまく活かした質感の高さは、218万1000円(税込 ※2019年7月23日時点)からのスターティングプライスを提げたモデルとは思えない。オーナーになったら、外観を眺めている時間より、室内にいる時間のほうがはるかに長い。そこをよくわかっていると感じた。

最後になってしまったが、スタイリングは大きな注目点だ。キャラクターラインをほぼもたない側面のデザインがとりわけ目をひく。なかでもファストバックは、張りのあるリアクォーターパネルのボリュウム感が圧倒的だ。加えてフロントは、バンパーを隠して、大きめなグリルとともに低く構えたルックスがかなりスポーティな雰囲気である。

いま世のなかでは、ハッチバックやセダンのセールスが低調ぎみで、SUVにとって代わられている。そこにあってあえて、今回のラインナップは大胆な決断に思えた。それについて前出の開発責任者、別府氏は「トレンドがどうこうというより、乗るひとが自分の表現として評価してくれることを期待して、このスタイルに決めました」と語る。

ラインナップは、1.5リッターガソリンの「15S」(ファストバックのみの設定、218万1000円~税込)、2リッターガソリン「20S」(247万円~税込)、1.8ディーゼルターボ「XD」(274万円~税込)、さらに2019年10月にはマイルドハイブリッドの「X」(314万円~税込)が追加される予定。

変速機は6段マニュアルと6段オートマチックで、駆動方式も15SとXDとXでは前輪駆動と4WDとが選べる。

小川 フミオ/Fumio Ogawa
慶應義塾大学文学部卒。複数の自動車誌やグルメ誌の編集長を歴任。そのあとフリーランスとして、クルマ、グルメ、デザイン、ホテルなどライフスタイル全般を手がける。寄稿媒体は週刊誌や月刊誌などの雑誌と新聞社やライフスタイル誌のウェブサイト中心。

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