――「ブルームバーグ スクエア・マイル・リレー 東京」を実際に見に行きました。丸の内のビジネス街をジャックした参加者が大声でチームに声援を送っていた姿が印象に残っています。みなさん楽しそうでしたね。

【石橋】特に今年は3回目ということで、手探りだった1、2回目と違って、勝ちにきているチームが非常に多かったのも盛況の理由かもしれません(笑)。丸の内で働いている人にとって、今回コースとなった仲通りって神聖な場所なんです。それは盛り上がりますよね。

――参加したチームからどんな声がありましたか?

【石橋】グローバルなコミュニケーションを活発化させることにもつながっているようです。というのも、このランニングイベントは、ロンドン、ドバイ、ニューヨーク、シンガポール、香港、シドニー、パリなど、世界12都市で開催されていますので、グローバル企業においては、このイベントが他国の同僚と親睦を深めるきっかけにもなりえる。実際、イベントに参加してくださった方からそんな話も聞こえてきました。

2019年5月23日に開催された「ブルームバーグ スクエア・マイル・リレー 東京」

――そもそも、どうしてブルームバーグがこのイベントに参画したのでしょうか。

【石橋】一番の理由は、ブルームバーグが創業時より企業文化の中心に据えてきた社会貢献に繋がるからです。「スクエア・マイル・リレー」は単なるランニングレースにとどまらず、エクストラ・マイルという社会貢献活動も行っており、チームエントリー費の25%が社会貢献プロジェクトに寄付されるという仕組みを持っています。参加者の皆様には我々のチャリティーパートナーが提案する3つのプロジェクトの中から、あらかじめ応援したいプロジェクトを1つお選びいただく。そして、各プロジェクトに投票したランナーの平均走行タイムが最も速かったプロジェクトが実施されます。今年は「教育」へのチャリティーが決まりました。チームの勝利のためだけではなく、スポーツを通じた社会貢献の機会を提供できるところに共感したというわけですね。

――かつての日本におけるチームビルディングといえば、「熱海で社員旅行!」といった全社的なイベントで家族的な結束を高めるというものでしたが、今ではあまり聞かなくなりました。

【石橋】ほとんどないですよね。社員旅行はどちらかというとトップダウンのやり方に基づいたものです。みんなが必ずしも熱海へ行きたいわけではないけれど、会社の上層の人たちが「熱海行くぞ!お前らも来い!」という感じだったと思います。

現在はビジネスの在り方もボトムアップの傾向にあるなかで、チームビルディングもボトムアップ型になっているのではないでしょうか。つまり、上司に言われて従うのではなく、同じ志向や悩みを持つ者が必要を感じて、自然発生的に集まって深く結びつく。そして、そのコミュニティを会社がサポートするというスタイルが主流になってくるのではないでしょうか。ちなみに、ブルームバーグの社内には、スポーツ同好会的なコミュニティや、介護の情報を共有するコミュニティ、ボランティアに取り組むコミュニティなどがいくつも存在しています。

――会社は何を期待してスモールコミュニティを支援するのでしょうか。

【石橋】通常業務を外れたコミュニケーションラインを持っておくと、仕事の初動スピードが変わるからです。同じコミュニティに属したことをきっかけにビジネスが発展することもあるでしょう。それをフェイバリズムととらえる向きもあるでしょうが、あらかじめ意思疎通ができている者同士だと、やはり仕事を合理的に進められる可能性が高まりますよね。

グローバルな経験や視点でチームにおけるコミュニケーションの在り方について語ってくれた石橋さん

――これからは人材の流動化や終身雇用制の終焉によって、プロジェクト単位のチームを作って短期的に目的意識を共有しなければいけません。そのためには、ビジネスパーソンにどのような資質が求められると思いますか?

【石橋】とにかくは柔軟性でしょうね。と言っても、自分と違う考え方の人と譲り合うということではなく、互いの違いを理解するということです。そこでチームに対して自分がどういうバリューを提供できるのかを見極める冷静さを持つというイメージです。Aというプロジェクトにおいてはリーダーシップを発揮するのが自分の役割だったとしても、Bというプロジェクトではサポート役に徹するべきかもしれない。

――その都度、自分の役割が変わるとなると、周囲との調整も必要になりますね。

【石橋】ええ。そのためには、自分の役割や考え方、スキルを的確に伝えるコミュニケーション能力と、客観的な自己評価が重要です。自分がリーダーをやりたいと言っても、周りがそう思わなければコミュニケーションを取っても何も進みません。

また、日本ではチームで何かプロジェクトを始めるときに、とりあえず「やります」と言ってしまう場面があるかもしれません。ですが、“とりあえずのイエス”にコミットがない場合もあります。スピード感もプライオリティも曖昧なままだと、1週間後に上司が「どうなった?」と聞いても全く進んでいないということもありえます。私が赴任していたロンドンの「yes」は軽くはない印象です。プロジェクトの意義を理解して、やるべきか否かから徹底的に話し合って、やるとなったらチームが一丸となって必ず結果を出すところまでしっかり詰めます。

――では、最後におうかがいします。石橋さんが考える理想のチームとはどのようなものでしょうか。

【石橋】ビジョンを共有するためのコミュニケーションが取れるチームが私にとって理想です。会社という大きなチームについてもそうです。つまり、その会社が存在する意義や使命といった“変わらないもの”をメンバーが共感し、同じ方向を向く。そのためにはコーチングや教育によるチームマネジメントも絶対的に大事でしょう。しかし、人が入れ替わっても変わることのない組織の価値観を共有することが一番大事だと思いますね。

――自分とは異なる人の存在を認めながら、自分が所属するチームの向くべき方向はメンバーで共有するということですね。その際に必要となる明確で徹底したコミュニケーションを心がけたいです。

text : Mio Amari
photograph : Mutsuko Kudo