ミニッツリピーターの新地平をひらく――オーデマ・ピゲ AUDEMARS PIGUET
2016年SIHHのオーデマ ピゲのブースでは、前年に続き音響チェックのラボが設けられ、新作ミニッツリピーターの洗練された音色が披露された。2015年に発表された「ロイヤルオーク コンセプト RD#1」が今年早くも製品化されたのである。
異なる二つの音色の組み合わせで、時・15分・分を表して時を告知するミニッツリピーターは懐中時計の“華”であった。オーデマ ピゲは1875年の創業当初から製作しており、1892年には早くも腕時計のミニッツリピーターをつくっている。ミニッツリピーターは複雑時計の中でもとりわけ難易度が高く、技術力を示すのに格好のジャンルであったから、ファインウォッチメーカーは各社競うように技術を研鑚してきた。
けれども1日の長があるというべきか、オーデマ ピゲの新作ミニッツリピーター「ロイヤルオークコンセプト・スーパーソヌリ」は「音質そのものをコンセプトとする」というように、アプローチが音響工学的でありアコースティックの楽器開発に近いものだった。音のクオリティーに徹底してこだわったのである。したがってローザンヌのスイス連邦工科大学とコラボレーションし、音の強度、音質、数値化しにくい人の感受性が捉える心地よい音の研究など音そのものの研究から始まった。
一方で実用性の面からは、一般に音の減衰を引き起こす防水構造を革新して新しい仕組みを開発するという課題があった。それを担う開発チームは音響学者・研究者、音楽学院の教授、弦楽器職人と時計師たち、と時計開発のR&Dチームらしからぬ編成となった。このチームで9年の年月をかけ製品化したのが今回の力作である。音そのものに根底的に迫ったのもオーデマ ピゲがミニッツリピーターの第一人者だという自負からだろう。新しい地平を切り開いたことは確かだ。
※本記事は『PRESIDENT』2016年7.12号に掲載された記事をweb用に再編集したものです。