ミニッツリピーターの新地平をひらく――オーデマ・ピゲ AUDEMARS PIGUET

「ロイヤル オーク コンセプト・スーパーソヌリ」。豊かな音量、洗練された音色、ガバナーのノイズ吸収など、音響への徹底的なこだわりがミニッツリピーターの新地平をひらいた。音響のモデルとしたのはアコースティックギターだという。ほかにトゥールビヨン(6時位置)、30分クロノグラフ(3時位置)も搭載した超複雑時計。●チタン。ケース径44mm。手巻き。ラバー・ストラップ。価格未定。
通常、地板に固定されたゴングを2つのハンマーで打ち分けて時を告知するのがミニッツリピーター機構の基本的な仕組み。「ロイヤル オーク コンセプト・スーパーソヌリ」ではこれまでのケース構造を見直し、音量アップのためにムーブメントの裏蓋側に音響盤を入れ、ゴングはこれに固定されている。

2016年SIHHのオーデマ ピゲのブースでは、前年に続き音響チェックのラボが設けられ、新作ミニッツリピーターの洗練された音色が披露された。2015年に発表された「ロイヤルオーク コンセプト RD#1」が今年早くも製品化されたのである。

異なる二つの音色の組み合わせで、時・15分・分を表して時を告知するミニッツリピーターは懐中時計の“華”であった。オーデマ ピゲは1875年の創業当初から製作しており、1892年には早くも腕時計のミニッツリピーターをつくっている。ミニッツリピーターは複雑時計の中でもとりわけ難易度が高く、技術力を示すのに格好のジャンルであったから、ファインウォッチメーカーは各社競うように技術を研鑚してきた。

けれども1日の長があるというべきか、オーデマ ピゲの新作ミニッツリピーター「ロイヤルオークコンセプト・スーパーソヌリ」は「音質そのものをコンセプトとする」というように、アプローチが音響工学的でありアコースティックの楽器開発に近いものだった。音のクオリティーに徹底してこだわったのである。したがってローザンヌのスイス連邦工科大学とコラボレーションし、音の強度、音質、数値化しにくい人の感受性が捉える心地よい音の研究など音そのものの研究から始まった。

一方で実用性の面からは、一般に音の減衰を引き起こす防水構造を革新して新しい仕組みを開発するという課題があった。それを担う開発チームは音響学者・研究者、音楽学院の教授、弦楽器職人と時計師たち、と時計開発のR&Dチームらしからぬ編成となった。このチームで9年の年月をかけ製品化したのが今回の力作である。音そのものに根底的に迫ったのもオーデマ ピゲがミニッツリピーターの第一人者だという自負からだろう。新しい地平を切り開いたことは確かだ。

「ロイヤル オーク・ダブル バランスホイール・オープンワーク」。AP脱進機をはじめオーデマ ピゲは精度追求の機構開発に熱心だが、今回精度と安定性の向上のための新機構を発明した。テンプとひげぜんまいを同軸上に2つ重ね、互いを補正し合う構造。●ケース、ブレスレットはSS。ケース径41mm。自動巻き。715万円。

※本記事は『PRESIDENT』2016年7.12号に掲載された記事をweb用に再編集したものです。