複雑時計の基礎にある「メカニカル・マスターズ」――A.ランゲ&ゾーネ A.LANGE & SÖHNE
フェルディナント・アドルフ・ランゲが起業したA.ランゲ&ゾーネは戦後東ドイツ政府に接収され、いったんは時計製造の歴史を閉じるが、東西ドイツ統一後に現会長ウォルター・ランゲが再興する。1994年には新会社初の歴史的なコレクションを発表。「ランゲ1」「アーケード」「サクソニア」「トゥールビヨン“プール・ル・メリット”」の4ラインがそれだった。以後A.ランゲ&ゾーネは毎年新機能を盛り込んだ新作を発表。いまではダトグラフ(クロノグラフ)、トゥールビヨン、永久カレンダー、ミニッツリピーター……などコンプリケーション全般をカバーするに至った。
そして2016年、その集大成ともいうべき複雑時計の新作が「ダトグラフ・パーペチュアル・トゥールビヨン」である。ランゲが新作発表にあたって強調するのが「メカニカル・マスターズ」という言葉。つまり数種の複雑機構を搭載する超複雑時計の場合、ただ単純な合わせ技では正常な作動はおぼつかない。各機能がスムーズに連動する仕組みが必要なわけだが、ランゲではそれを見越してそのためのマスターピースづくりを早期から行ってきたというのである。多数の機能を搭載したグランドコンプリケーションでも時計としての基本要件を外さず、高精度であり明快で視認性が高いのはそれに由来するだろう。今年の力作複雑時計もまたその帰結である。
ここで紹介したもう一作「リヒャルト・ランゲ・ジャンピングセコンド」は科学観測用のデッキウォッチの流れをくむレギュレーターウォッチ。秒針が1秒ごとに動くステップセコンド機能が付く。通常駆動に必要な動力制御システムと特殊なステップ運針制御機構の二つを巧みに連携させコントロールするという高度の新技術を搭載。これもまた「メカニカル・マスターズ」の流れの中に置くことができる。
※本記事は『PRESIDENT』2016年7.12号に掲載された記事をweb用に再編集したものです。