パワー全開、実用の新基準へ――オメガ OMEGA
この20年ほどのオメガの歩みは、メンテナンスフリー追求の歩みだといっても過言ではない。
すべてはオメガが属するスウォッチ・グループの創設者、ニコラス・G・ハイエック氏(故人)の大号令から始まった。注油の手間を軽減する新型のエスケープメント、コーアクシャル脱進機を実用化せよというものだった。1993年のことである。6年後の99年、オメガはコーアクシャル脱進機の実用化に成功。2007年、コーアクシャル脱進機を搭載した自社製キャリバー8500を生産開始。翌年、耐磁性に優れたシリコン製ひげぜんまいを採用。2015年、1万5000ガウス以上の磁力に耐える超高耐磁キャリバーを開発、マスターコーアクシャルと命名する。そして昨年にはスイス連邦計量・認定局(METAS)による8項目の検査をパスしたマスター クロノメーター認定へと至った。
ここであらためてマスター クロノメーターに触れると、精度や防水性といった時計の基本性能に加えて、1万5000ガウスの磁力にさらされた際の各種機能や精度といった耐磁性の検査が含まれることが大きな特徴だ。その点では機械式時計の代表的な品質基準である、COSC(スイス・クロノメーター検定協会)の認定よりも取得のハードルが高い。オメガが耐磁性を重視するのは機械式時計の不具合の半数以上が磁気帯びによるものだからだ。今年のオメガはこのマスター クロノメーターをワールドタイマー、クロノグラフ、GMTなど各種機能を搭載したモデルで取得。初取得から2年目にして驚くほどの拡充ぶりで、このスピード感も近年のオメガ躍進の要因である。
2016年4月、オメガ本社社長のステファン・ウルクハート氏が勇退するとの発表があった。社長就任の1999年に実用化されたコーアクシャル脱進機の進化・普及はこの人抜きには語れない、まさに育ての親である。「技術力でトップになる」と口癖のように語った氏の願いは実現したか。この20年ほどの開発を総覧すればその答えは誰の目にも明らかだろう。
※本記事は『PRESIDENT』2016年7.12号に掲載された記事をweb用に再編集したものです。