地球から見える月は、新月から満月、そしてまた新月へと形を変えながら、約29.5日周期で一周する。その月の形をビジュアルで表したものを月相といい、新月からその日の月相までに要した日数を月齢と呼んでいる。
腕時計のムーンフェイズ機能とは、この月相や月齢を、月のミニチュアや月齢専用の目盛りで表したものだ。たとえ雲がかった夜であろうと、あるいは夜空が見上げられない環境にいても、盤上のムーンフェイズを見ればその夜の月相を知ることができるという機能である。
はるか昔、時計が発明される前は、月相を季節を知る手がかりとしていた。自然現象や動物の行動・生理現象に関連があるとされ、月相から作物の収穫時期や、自然災害の発生時期を割り出していた地域もある。翻って現代においては、日付や曜日の表示と異なり、あれば便利という機能ではない。むしろなくても日常生活には何ら支障ないと言っていいだろう。
だが一方で、実用偏重になりがちな腕時計というツールに、宇宙の神秘や憧れ、月の美しさといったエモーショナルなムードを添えてくれる数少ない機能である。日付・曜日などのカレンダー表示にムーンフェイズが加わるだけで、どこか情緒や風情を感じるのはそのためだろう。
折しも季節は中秋の名月。見入ってしまうほど神々しい満月の美しさをいつでも感じていたければ、こんなムーンフェイズウォッチに留めるのも一手。2019年の新作から、ムーンフェイズ機能を備えたお薦めのモデル3本をお届けしよう。
29.5日に一度のお楽しみ。フルムーンの迫力は圧巻
アーノルド&サン「HMパーペチュアル・ムーン・アベンチュリン」
一般的なムーンフェイズ機構は、専用の小窓でこぢんまりと月相を示すものが大半だが、アーノルド&サンのこのモデルは見ての通りムーンが主役。直径11.2mm、丁寧なエングレービングでクレーターまで描いたゴールド製のムーンは見応え十分で、フルムーンが待ち遠しくなるほどだ。今年登場したアベンチュリンダイヤルは星のようなダイヤルがムーンと美しく調和し、情緒的な雰囲気を一段と引き立たせる。月相表示の精度も高く、誤差は112年に1日分のみ。
南半球の夜空に浮かぶ月を眺め、異国の仲間を思う
パルミジャーニ・フルリエ「トリック パーペチュアルカレンダー レトログラード」
ムーンフェイズ表示は、どちらかといえばクラシックを基調としたデザインによく似合う。気品、控えめ、優雅さなど、互いに通じるものがあるからだ。その好例といえるのがパルミジャーニ・フルリエの新作。ギヨシェ装飾を施したスレートグレーダイヤルに、レッドゴールドのムーンや時分針が優しげに調和する。月相は北半球と南半球で見え方が異なるが、このモデルはその両方がわかるダブルムーンタイプのムーンフェイズ機構を備える。月相の修正が必要になるのは122年に一度のみ。
レジェンドをいつも手元に宿す醍醐味
オメガ「スピードマスター ムーンフェイズ プラチナゴールド」
腕時計で月といえばオメガの「スピードマスター」を想起する人も多いだろう。もとはカーレース向けに誕生したスピードマスターだが、その後、アメリカのアポロ計画に正式採用され、月面着陸時の携行品となったことから、以降、月に着想を得たモデルを多く発表している。今年は、クレーターまで丁寧に彫金されたゴールド製ムーン、ダイヤモンドセットインデックス、プラチナゴールドという独自素材のケース&ダイヤルという、ハイクラスなモデルが登場。ストーリーのみならずプロダクトとしても特別感が非常に高い。耐磁性をはじめ高い性能を証するマスタークロノメーター認証取得。
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