ムーンフェイズのフェイズとは“相”の意。つまりムーンフェイズとは“月の相”という意味で、地球から見たときの月相を指す。月相は新月から満月、そしてまた新月と、周回するように移り変わり、新月からその月相までに要した日数が月齢となる。月相、月齢ともに約29.5日周期で1周し、これらを時計上で示す機能をムーンフェイズと呼んでいる。

一般的なムーンフェイズ機構は、半円の直線部分が2つの弧から成る特殊な形状の小窓と、その内側に2つの満月を描いたディスク(ムーンディスク)を配置する。小窓の弧部分が、内側で回転するディスク上の月を隠すことで下弦・上弦といった月相を表示する仕組みだ。

18世紀にムーンフェイズが発明されて以来、現在に至るまでこの表示方法が主流ではあるが、近年は、月相・月齢の表示方法に趣向を凝らしたものが多い。今年もまた、月の美しさに主眼を置いたモデルや、月相の行方を示す新機構を搭載したものなど、表現力の豊かさを感じさせるモデルが目立った。

人類が一歩一歩近づくもいまだ遠い月には、太古もいまも見る者を惹きつける神秘性がある。月に憧れを抱きロマンを感じるなら、いつだって月を身近に感じていたいはずだ。そんなロマン好きな大人を満たすムーンフェイズウォッチを厳選した。

ムーンフェイズには天空のファンタジーを
エルメス「アルソー ルゥール ドゥ ラ リュンヌ」

18Kホワイトゴールドケース。ケース径43mm。自動巻き。3気圧防水。アリゲーター・ストラップ。320万円(税別)。世界限定100本

どんな伝統的な機構であろうとも、既存の常識的な発想から脱して優雅で遊び心のあるクリエーションを生み出す。それがエルメスの時計づくりだ。今年の新作は、南北両半球の月相を示すムーンフェイズ。アベンチュリンのダイヤルに象嵌技法による2つの月がはめ込まれ、その上を連結された2つのスモールダイヤル(時分表示計と日付表示計)がセンターを中心に回転。59日間で1周する。通常は月ディスクが回転するところ、月を固定するという逆転の発想で2つの月をより大きく美しく見せることが可能となった。12時側の南半球の月の表面にはペガサスのモチーフを施すなど、エルメスならではのウィットに富む。

大きさ、美しさ、いずれも最高峰のムーンが見もの
アーノルド&サン「HMパーペチュアル・ムーン・アベンチュリン」

18Kレッドゴールドケース。ケース径42mm。手巻き。3気圧防水。アリゲーター・ストラップ。384万円(税別)。世界限定28本

ムーンフェイズ機構といえば、小窓でこぢんまりと月相を示すのが一般的だが、こちらのモデルは見ての通りムーンが主役。エングレービングでクレーターの凹凸まで装飾された直径11.2mmの大ぶりなムーンは見応え十分で、新月の時期が物寂しくなるほどだ。今年登場したアベンチュリンダイヤルのモデルはまさしく夜空のような色彩で、情緒的な雰囲気を一段と引き立たせる。月相表示の精度も高く、誤差は112年に1日分のみ。伝統的な機構を現代的にブラッシュアップするこのブランドらしい新作だ。

月の満ち欠けの行方も示す世界初の機構
クロノメトリー・フェルディナント・ベルトゥー「クロノメーター FB 1L.1」

18Kホワイトゴールド×セラミックケース。ケース径44mm。手巻き。30m防水。アリゲーター・ストラップ。3374万円(税別予価)。世界限定10本。発売時期未定

18世紀半ばに、航海用精密時計(マリンクロノメーター)の製造で名を馳せた時計師をルーツとする新鋭のブランド。8角形のミドルケース、トルクの安定性が高いフュゼ・チェーン機構など、技術的難度の高い時計づくりを特徴とする。月相・月齢表示を突き詰めたのが今年の新作。6時位置のインジケーターで月相・月齢を、5時位置の小窓では新月・満月どちらに向かっているかを現し、それらの動力をフュゼ・チェーン機構で伝達する。パワーリザーブは約53時間。COSC認証取得。

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