まずは、スタイリッシュさも兼ね備える3台
――それでは、この春、お薦めのグラベルロードを選んでもらえますか。
【菊地】1台目はJAMIS(ジェイミス)の「RENEGADE EXPAT」です。ポジションやタイヤの太さにクセがなく、いわばグラベルロードの入門編です。タイヤのブロックの入れ方に特徴があって、真ん中あたりは小さくして、両側は大きくしています。直進するときは抵抗を少なくし、ある程度スピードを出し、曲がるときはしっかりグリップするためです。操作性ではロードバイクとさほど違いはなく、オンロードでもオフロードでも万能なタイプに仕上がっています。クロモリ(鉄主体の合金)の頑丈な素材で、荷台や泥除けを後付けしても安定性を保ちます。
――初めてスポーツバイクに乗る人にも向いていそうです。アースカラーでまとめているので、街中に停めても風景に馴染みますね。
【菊地】このブランドに限らず、グラベルロードは落ち着いたカラーリングが多いですね。もっと派手な色を欲しがる人もいますが(笑)。
次にお薦めするのがFUJI(フジ)の「JARI 2.3」です。グラベルの意味の「砂利」を車名に冠しているだけに、冒険的な乗り方を考えたつくりになっています。たとえばハンドルがかなり八の字になっています。これは悪路を走るとき暴れる自転車を手で抑え込みやすくするためです。また、肩に担いでも痛くないように、足をまたぐところのフレーム(トップチューブ)の下側にはゴムを付けています。
――これは特徴のあるグラベルロードですね。週末、山の中へでも持ち出したくなります。これなら浅い川くらい担いで渡れます。
【菊地】通勤で使い倒してもよし、その気があれば世界一周もできるグラベルロードです。荷台を付ければ重い荷物もOKですからね。でもマッチョなつくりだけが特徴ではありません。ロゴやワイヤーにオレンジの差し色を使ってオシャレ感を出しています。
オシャレと言えば、絶対に外せないのがMASI(マジー)の「SPECIALE RANDONNEUR ELITE」です。
ツーリング用自転車の「ランドナー」をイメージさせるクラッシックデザインです。ほかのグラベルロードでは泥除けは後付けですが、これは最初から付いていて、それも含めてデザインが完成されています。いかにもイタリアンブランドという感じがしますね。タイヤはグラベルロードでも最も太い47ミリ。存在感を出しながらも、ホイールを通常のロードバイクより一回りサイズダウンして小回り性能を出しています。
アーバンスタイルで乗るかアドベンチャーに挑戦か
――マジーは趣味性の高いグラベルロードですね。昔ながらのダイナモライトを採用しているところもデザインの統一性を意識しています。この自転車をオープンテラスのカフェの脇に置いて、エスプレッソを飲むのが似合いそうです。
【菊地】いいですね(笑)。次に紹介するCannondale(キャノンデール)の「SLATE APEX 1」も方向性は違いますが、デザイン的には一目置かれています。前輪をはさむフロントフォークが左側しかなく、このレフティフォークはキャノンデール独自のものです。
グラベルロードには珍しく、サスペンションを入れて、腕に受ける衝撃を少なくしています。これはロックすることも可能。坂道ではロックして、フワフワすることなくしっかり上がれます。ほかに、前のギアは一般的な2枚ではなく、1枚だけにして泥が詰まるリスクを減らしたり、マウンテンバイクと同じようにトップチューブが低く設計されており、「危ない!」と思ったらすぐに飛び降りたりできます。アグレッシブに使うシーンを想定してつくられています。
――飛び降りることを想定しているグラベルですか……こういうアグレッシブさにワクワクする人もいそうですね。それにしても「SLATE APEX 1」は見た目からして他とは違うなという印象です。特にレフティフォークはすごく個性的。
【菊地】軽さを追求したら、機能性とデザイン性を両立するこういう面白い形になったそうです。軽さで言えば「SLATE APEX 1」のフロントフォークはカーボンを使っています。
最後に紹介するTREK(トレック)の「Checkpoint SL 5」もカーボンを採用したグラベルロードです。トレックにはレーシング用ロードバイクの印象をお持ちの方も多いと思います。そのイメージを崩さないロードに近いスタイルを継承しています。
チェーンと並行に伸びるチェーンステーの形状を左右非対称にしてチェーンが当たらないようにするとか、シート(シートポスト)を支えるシートチューブはシナる仕組みで乗り心地をよくするとか、トレック独自の工夫もいっぱいです。
――トレックは非常に都会的で、いい意味でグラベルロードらしくありませんね。ここに取り上げてもらった5台を見ても、各メーカーの色がよく出ていて、個性派ぞろいです。どれも魅力的で、「この1台」が決まりません(笑)。
【菊地】どのグラベルロードも舗装路とダートの両方をできるだけ快適に走れる設計になっているので、基本、好きなデザインで選べばいいと思います。あとは自分の使い方が、より通勤寄りか、アウトドア寄りかでしょう。たとえばトレックは街中が似合いそうですし、キャノンデールはアウトドアでガンガン使ってやりたいグラベルロードですね。
フレームは鉄? アルミ? カーボン?
グラベルロードもロードバイクと同様、フレームの素材には主にクロモリ(鉄主体の合金)とアルミ、カーボンの3種類があります。今回紹介した5台のうち、ジェイミスとフジ、マジーはクロモリで、キャノンデールはアルミ、トレックはカーボンです。
クロモリは丈夫さ、耐久性が持ち味です。荷台を付けてそこに荷物を載せ、ツーリングに出かける場合でもOKです。ただし、マジーは最初のスタイリングを完成形にしているので、後付けで荷台を付けることは想定していません。
アルミのフレームはクロモリよりも軽快な走りができ、カーボンほど高価でないところが特徴です。
カーボンは軽くなる分、価格に跳ね返ります。比較的自由に成形できるのはカーボンの特徴です。トレックのチェーンステーが左右非対称にできるのも素材の恩恵です。カーボンの欠点として今まで荷台が付けられなかったのですが、トレックは素材の強度を高めてそれを可能にしました。
text:Akifumi Oshita
photograph:Tadashi Aizawa