オーダースーツが空前のブームだ。いわゆる「吊るし」と呼ばれる既製品のスーツは、メーカー側がスケールメリットを生かすべく売れ筋となる色柄生地をそろえることが必須となる。そのため既製品にはない色柄スーツを求める客にも個別に対応できるオーダーシステムを、多くの既製服ブランドが導入している。色柄の希望だけでなく、上下でサイズが異なるといったフィッティングに悩む人のためにも、オーダーシステムは有益だ。
しかしネックとなるのは納期である。既製品のお直し程度なら1週間ほどで対応できるが、オーダーとなると納期は、通常3カ月から半年が一般的。ラグジュアリーブランドのオーダースーツもまた、最低でも数カ月の制作期間を必要とするのが普通だ。さらに個人のテーラーであつらえれば、長いところなら1年以上かかることも。待つ間に体型が変わってしまったり、気分が変わって生地の色柄に興味が失せたりすることもあるだろう。これでは手がけるテーラーも、仕上がったスーツも浮かばれないというものだ。
さて、シーズンコレクションとは別に、スタンダードなスーツのコレクションを用意し、オーダースーツを通年受け付けているラグジュアリーブランドは少なくない。ジョルジオ アルマーニもその一つ。
ジョルジオ アルマーニの美しく気高いスーツには、圧倒的な存在感がある。ゆえに特別な晴れ舞台で着用する人が多い。式典や宴席でのスピーチ、講演会など、スポットライトを浴びる場面で映えることから、愛用者にはエグゼクティブが目立つのもうなずける。しかし、急遽決まった1カ月後の登壇に向けてスーツをあつらえるのはさすがに不可能。そうした場合には店頭で既製品を選ぶことに甘んずるしかなかったはずだ。
今年から導入された「メイド トゥ オーダー」なら、そんな妥協はもう必要ない。スーツを自分好みにカスタムオーダーしても、1カ月後には袖を通せるという画期的なシステムだからだ。生地にもよるが、既製品のスーツに約10%のアップチャージで、サイズのセレクトと好みの色柄生地やボタンなどの変更が可能となる。
フィッティングの際には「クラシックシルエット」と「スリムフィットシルエット」、カーディガンを羽織るように軽いデコンストラクテッドタイプのジャケットから選ぶことができ、サイズも44~66と豊富にそろう。採寸不要のこのシステムなら、価格はスーツが30万9000円から用意されている。もちろん採寸して確実なフィッティングを望むのであれば、従来通りのプログラム「メイド トゥ メジャー」を利用すればいい。こちらは納期35日から70日、価格は34万8000円からとなっている。
あえてオーダースーツの不満をいえば、価格面や仕様指定の煩雑さに加え、「購入後、すぐ着られない」という不便さもあるだろう。しかし1カ月程度なら、しかもそれがラグジュアリーブランドのスーツならば、楽しみながら待てる時間となるはずだ。世界で一着のスーツをあつらえたという高揚感が冷めやらぬうちに袖を通せば、ジョルジオ アルマーニのスーツが放つ気品とあいまって、着る人自身の魅力もさらに高まるはずだ。
text:Yasuyuki Ikeda(zeroyon)