20年ほど前から、腕時計のケースはより大きく、より厚くという方向にシフトしてきた。サイズは40mmをゆうに超え、厚さも15mm以上ある、いわゆる大径・厚型ケースの時計が主流となってきたが、ここ数年は少しずつ小型・薄型化への回帰傾向が見え始めている。
ケースの薄型化とは、考え方はこの上なくシンプルだが、その実これほど時計製造の総合的な力量を問われる開発もない。時計を機能させるためのパーツを極小のスペースに収めるために、まず何よりも精密な部品製造技術が求められる。
さらに、薄型にすると当然、耐久性に難が出る。薄さを追求しながら耐衝撃性、防水性、防塵性、精度などを確保するには、素材選び、部品の設計・加工・組み上げ、接合方法など多くのプロセスで高度な技術・ノウハウが求められるのである。そのため、薄型時計をつくることができるメーカーは、部品製造から自社で行えるマニュファクチュールであることが多い。
今回紹介する3ブランドもそうしたマニュファクチュール・ブランドである。いずれも極薄と呼べるレベルの時計であり、これだけの薄さに数百というパーツを納めた技術レベルも特筆に値する。だが、これらのブランドが求めたのは薄さの先にあるエレガンスであり、そこにこそ薄型ケース最大の魅力がある。ビジネスの装いをエレガントに格上げしたいなら、薄型時計はその最有力の選択肢となる。
■スーツにも格好のエレガント・トゥールビヨン
ショパール「L.U.C フライング T ツイン」
ショパール初のフライングトゥールビヨン。ダイヤルのオープンワークに覗くキャリッジが内側のブリッジのみで支えられ、宙に浮いたような軽快な印象を特徴とする。190もの部品から成るトゥールビヨンを搭載しながらケース厚は7.2mm。クラシシズムを踏襲し、伝統的な時計づくりを重視する「L.U.C」コレクションの本質が感じられる薄型トゥールビヨンだ。マイクロローター採用、ツインバレルを搭載しパワーリザーブは約65時間。COSC認証とジュネーブシールをともに取得。
■薄型、オールグレーが醸すモダニティ
ブルガリ「オクト フィニッシモ クロノグラフ GMT」
ブルガリは2014年の手巻き式トゥールビヨンに始まり、ミニッツリピーター、スモールセコンド付き自動巻き、自動巻き式トゥールビヨンと、これまで4つのモデルで薄型の世界記録を更新してきた。それらの技術を駆使して今年完成させた、5つ目の世界最薄となる時計がこの自動巻きクロノグラフ。9時位置のプッシャーで1時間単位での調整可能なデュアルタイム機能も備えた上で、ムーブメントの厚さはわずか3.3mm、ケース厚は6.9mm。これだけの薄さでありながらケースの造形にも凝り、モダンなエレガンスを創出した。
■メテオライトのテクスチャーが美しく調和
ピアジェ「アルティプラノ」
1957年に手巻きキャリバー9P、3年後の1960年に自動巻きのキャリバー12Pという薄型ムーブメントを製造して以来、現在まで60年以上にわたり薄型のエレガントウォッチを追求してきたピアジェ。その主要コレクションである「アルティプラノ」から今年、ダイヤルに隕石(メテオライト)をあしらったモデルが登場した。文字盤はナミビアで発見された隕石にガルバニック加工で着色したもの。厚さ6.36mmの薄型ケースには、マイクロローター式自動巻きのキャリバー1203Pを内包する。
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